相続放棄

人が死亡すると、その人の持っていた財産を、その人の妻や夫、子供らが引き継ぐことになります。これを相続と言います。死亡した人のことを被相続人と言い、その人の財産を引き継ぐ人のことを相続人と言います。被相続人が遺言書を残せば、それに従って相続人が決まりますが、そうでない場合は、法律の規定で相続人が決まります。

この場合の財産には、土地や預貯金、株などのプラスの財産(これを「積極財産」と言います。)だけでなく、借金などのマイナスの財産(これを「消極財産」と言います。)も含まれます。相続する場合は、プラスの財産だけ引き継ぐことはできません。マイナスの財産も引き継ぐことになります。

しかし、借金などのマイナスの財産の方が、プラスの財産よりも多い場合は、相続することは、かえって、相続人に酷な結果となります。

そこで、このような場合は、相続の放棄をすることで財産を引き継がないことができます。

相続を放棄するためには、家庭裁判所に相続放棄の申述をしなければなりませんが、それが可能な期間は、原則として、自分が相続人となったことを知った時から3ヶ月以内となっています。この期間が過ぎてしまうと、もはや相続の放棄はできませんので、プラスの財産が多ければよいですが、借金などのマイナスの財産が多い場合は、相続した人が、自分の財産を投げ打ってでも、責任を負わなければならなくなります。

それでは、自分が相続人となったことを知った時とはいつのことを言うのでしょうか。普通は、被相続人が死亡したことを知って、自分が法律上相続人となったことを知った時ということになるでしょう。

しかし、そう考えると、例えば、子供のいる夫婦がいて、その夫婦が離婚し、子供は母のほうが引き取って、その後、父親である男性とは、数十年もの間、音信不通であったような状況で、その男性が死亡したことを、子供が風の便りで知ったような場合でも、その子供は、自分が相続人となったことを知った時から3ヶ月以内に相続放棄をしないと、父とはいえ、その借金などのマイナスの財産を引き継がなければならないのでしょうか。

このような場合、裁判所は、自分が相続人となったことを知った時を、次のとおり緩やかに解釈しています。

被相続人が死亡したことを知って、自分が法律上相続人となったことを知った時から3ヶ月の期間が経過した後であっても、その相続人が、被相続人と別居後その死亡に至るまで被相続人との間に全く交渉がなかつたこと、被相続人の資産や負債については全く知らされていなかったことなどから、その相続人が、被相続人が死亡したこと、これにより自分が法律上相続人となつたことを知った後、債権者からの通知により借金(債務)の存在を知るまでの間に、これを認識することが著しく困難であって、相続財産が全く存在しないと信じることについて相当な理由があるときは、被相続人の死後、数年を経過している場合であっても、借金(債務)の存在を知ったときから3ヶ月以内であれば相続の放棄ができるとしています。

このことは、一概に言えないところもありますので、このような状況にあるときは専門家に相談するとよいでしょう。

関連事項 相続

ページ上部へ戻る