遺言

高齢化社会を迎えて、遺産を次の世代へいかにして円滑に承継させていくかを考えることの必要性が増加しています。その一つが相続問題です。相続を受ける側の権利意識の高まりから、遺産分割を要求することによる相続人間の争いを増加させ、この問題を深刻化させています。

こうした相続による遺産を巡る争いは、決して特別な出来事ではなく、資産規模の多い少ないに関係なく、どの家庭にも親子間や兄弟姉妹間の不仲、事業や経営の承継を巡るトラブルなどから起こりうる問題です。自分の亡き後、「相続」が「争族」になってしまっては、安らかな最後を迎えられるか心配です。また、後に残された家族にも辛い思いをさせてしまうことにもなります。

こうした「争族」にならないために、本人ができることの一つが、遺言を残すということです。遺言は、遺言者が自分の亡き後に、自分の財産を生前と同じように意思表示(自分の思い)によって自由に処分しようとするものです。遺言者は、家族の長年のキーパーソンであったわけで、微妙な家族関係を熟知している存在です。こうした事情をふまえて書かれた適切な遺言であれば、遺族にとって大切なものとして残るはずです。また、遺言がないばかりに、その真意を知ることができず、家族の間で骨肉の争いとなってしまうのです。それを避けるためには最終的な意思を遺言という形で明確にし、トラブルを未然に防ぐことが、残された家族への真の思いやりといえるのではないでしょうか。

なお、遺言は民法で定められた方式で書かなければなりません。民法は、平時の場合の普通方式として①自筆証書遺言②秘密証書遺言③公正証書遺言、危急時の場合の特別方式として④危急時遺言⑤隔絶地遺言の方式を規定しています。そして、民法の定める方式によらない遺言は、無効となりますので、司法書士等の専門家に相談することをお薦めします。

遺言が特に必要な場合の主な具体例は次のとおりです。

(1)夫婦の間に子供がいない場合
遺言がなく夫婦間に子供がいない場合、その一方が死亡すると、その遺産は、残された配偶者と、その死亡した者の兄弟姉妹が相続することになります。例えば、夫婦で住んでいた自宅が夫の名義で、夫が死亡した場合、その自宅を妻の名義にしたくても、遺言がないと兄弟姉妹との話し合い(遺産分割協議)が必要になり、話し合いがまとまるまで、自宅の名義を妻の名義にすることができなくなります。

(2)子供の配偶者に財産を贈りたい場合
自分の子供の配偶者は、その配偶者との間で養子縁組をしていない限り、自分の遺産についての相続権は全くありません。例えば、自分の息子である夫に先立たれた妻が、夫亡き後、その夫の親である自分の面倒をどんなに永い間みていたとしても、遺言がなく子供がいなければ、自分の遺産は、すべてその夫の兄弟姉妹が相続してしまい、自分の面倒を見てもらった息子の妻に報いることができなくなります。

(3)先妻の子供と後妻がいる場合
先妻の子供と後妻がいる夫が、遺言を残さずに死亡した場合、遺産の分割に関連して、先妻の子供の立場からすれば、亡くなった父が再婚さえしなければ、遺産は全部自分が相続するはずであったのに、後妻のために、その相続分が半分になってしまったという不満や、亡き母を思う先妻の子供と、後から家庭に入ってきた後妻との間の感情的な対立から、紛争が大きくなることがよくあります。

このような場合、遺言で、先妻の子供に相続させる財産と後妻に相続させる財産とを決めておくことで、遺産分割による紛争を十分に避けることができます。

(4)夫婦が内縁関係の場合
内縁関係にある夫婦とは単なる同居人とか同棲者というのではなく、社会的には夫婦として認められていながら、ただ婚姻届が出されていないだけの事実上の夫婦(事実婚)のことです。このような夫婦関係にある場合、例えば、内縁の夫が亡くなっても、遺言がない限り、その内縁の妻には、法律上、亡くなった夫の遺産についての相続権は全くありません。

(5)相続人が全くいない場合
遺言がなく相続人がいない場合は、特別な事情がない限り、その亡くなった人の遺産は全て国のものになります。そこで、遺産を友人や知人、お世話になった人に譲りたいとか、お寺や教会などの宗教関係の団体、医療機関や介護施設などの社会福祉関係の団体などに寄付したいという場合には、その旨の遺言を残しておく必要があります。

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